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東京家庭裁判所 昭和44年(家イ)1340号 審判 1969年5月28日

本籍並びに住所 東京都太田区

申立人 谷田ミヨ子(仮名)

国籍 中国 住所 東京都武蔵野市

相手方 僧天秀(仮名)

他二名

相手方僧るみ子特別代理人 谷田悟(仮名)

主文

相手方僧天秀および相手方僧ふじ子と相手方僧るみ子との間にそれぞれ親子関係の存在しないことを確認する。

理由

一  申立人は主文と同旨の審判を求め、その事由として述べる要旨は、

(一)  相手方僧るみ子(以下「相手方るみ子」と略記する。)は、相手方僧天秀(以下「相手方天秀」と略記する。)および相手方僧ふじ子(以下「相手方ふじ子」と略記する。)との間に昭和二九年五月一〇日生の子として出生届がなされているが、真実は、申立人と相手方僧るみ子特別代理人谷田悟(以下「谷田悟」と略記する。)との間の子であつて、相手方天秀および相手方ふじ子間の子ではない。

(二)  申立人は谷田悟と昭和二七年夏ごろ知り合つて関係を持つようになつたが、当時、谷田悟の親に反対されたため、同人らは正式な婚姻ができなかつた。この間、申立人は妊娠して前記年月日に谷田悟の子として相手方るみ子を出生した。

(三)  相手方天秀は上海で生まれ、中華人民共和国成立前に香港に転居し、戦後一九四八年(昭和二三年)来日して以来、外国人登録上は中国籍として日本に滞在している者であるが、この間、昭和二七年三月七日申立人の姉である相手方ふじ子と婚姻し、両者間に昭和二五年八月一一日長女ギヨツカをもうけていた。

(四)  ところで、申立人は相手方るみ子を前記事情の下に出産したため、これを姉夫婦である相手方天秀および相手方ふじ子間の子として虚偽の出生届をしたため、相手方るみ子は、同人ら間の子として相手方天秀と同じく中国籍を有するものとして、外国人登録がなされた。

(五)  相手方るみ子は、出生以来相手方天秀および相手方ふじ子に養育されてきたが、上記のとおり同人らと相手方るみ子との間には親子関係が存在しないことは明らかであるし、申立人と申立外悟とは昭和三一年五月二二日適式の婚姻を了し、相手方るみ子も成長するに及んでこの間の事情を了解したので、今後相手方るみ子を申立人の身許において養育する方針であり、この際、真実に反する戸籍の訂正を求めるため、本申立に及んだ。

というにある。

二  本件につき、昭和四四年四月二五日の調停委員会における調停において、当事者間に主文と同旨の審判を受けることについて合意が成立し、その原因についても争いがないので、当裁判所は、本件記録添付の関係人らの戸籍謄本、外国人登録証明書出生届出済証明および申立人、相手方天秀、相手方ふじ子ならびに谷田悟に対する審問等によつて必要な事実を調査したところ申立人の前記申立の事由のとおりの事実が認められる。

三  ところで、本件は、相手方天秀の国籍および相手方るみ子の表見的国籍はいずれも中国であり、相手方ふじ子の国籍は日本であるから、本件は渉外事件であるが、当事者らはいずれも永年日本に居住するものであるから、わが国の裁判所に裁判権がありしかも住所地たる当裁判所に管轄のあることは明らかである。

ついで本件の準拠法について考えると、本件は相手方天秀同ふじ子と相手方るみ子との間に、実質的に親子関係のないことを明らかにすること、つまりこの当事者間に嫡出の親子関係のないこと、および父母双方と子との間に非嫡出の父子母子親子関係のないことを明らかにするものであるから、嫡出関係の確定については法例第一七条により子の出生当時の母の夫の本国法により、非嫡出父子、母子関係の確定は法例に直接規定がないけれども、出生当時の父または母の本国法によるべき場合と解される。

然るときは本件記録中の外国人登録証その他の資料によると相手方るみ子の表見上の父である相手方天秀の国籍は同るみ子の出生当時より中国であることが一応認められる。

ところで中国には中華民国政府と中華人民共和国政府とが対立しており相手方らについていずれの政府の法を本国法として適用すべきかが問題であるから考えると、相手方天秀本人審問の結果その他の資料によると同人の出身地は中国本土の上海市であること、同相手方本人は終戦後中共政府の成立前に香港に渡り、その後間もなく渡日し、以来日本に滞留して貿易商を営んでいるもので、中国本土に戻る気持は無論中共政府を支持する考えも持たないし、また中華民国に渡る考えもなく、日本に帰化したい考えを懐いていることが認められ、以上の事実によると、相手方天秀の本国法決定の基準である国籍をいずれともきめかねる事態であるから、当裁判所は同人についてはむしろ無国籍に準じて処理すべきものと解し、法列二七条二項に準じ同人の住所地法である日本法によるべきものと判断する。

以上のとおり、本件については、いずれにしても日本民法を適用すべき場合であり、日本民法によれば表見上の父母と事実上の親子関係のないときは嫡出、非嫡出親子関係の成立する余地はないから、当事者間に成立した前記合意を正当と認め、調停委員上田寿同大槻たかの各意見を聴き、家事審判法第二三条に基づき、主文のとおり審判する。

(家事審判官 野田愛子)

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